雪の練習生 多和田葉子著

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この本を初めて知ったのは新聞の書評欄だったと思う。
表紙の白熊の絵が印象的でよく憶えている。この本の発行日を見ると20011年なので、もう15年も前なのか。
それが、先日、ラジオでこの本の話が出ていた。
正直に言うとこの本を当時読んだのか、読まなかったのか定かではなかったのだけれど、あの白熊の絵が気になって借りて来てしまった。

基本的に白熊と調教師の物語ではあるのだけれど各章でそれぞれ白熊のお話と調教師のお話は独立しており、それぞれがそれぞれを語っている。
特に白熊は自分自身で語り、話の中では人間のように物を書いたりしゃべったり、ホテルに泊まったりする。そのメルヘンチックとも言える物語が違和感なくこちらに入ってくるのが、なんとも気持ちがいい。
その作風のせいなのか、著者がドイツ在住で日独二カ国語で本を発表したりしているせいなのか、あたかも翻訳小説のような匂いのする小説である。

僕は幼い頃から犬を飼っていた。
ハチと言う柴犬で大変かしこい犬だったのだが、僕が東京の大学に行っていた頃に交通事故にあって獣医からは安楽死を勧められたらしいのだが、三日後に帰省予定だった僕にひと目会わそうと母がそれを断ってくれていた。

僕が自宅に帰るとハチは応接間に横たえられていた。僕がそっと抱き上げると元気な時のような目で僕を見つめた。
僕はすぐにハチが水を飲みたいのだと感じて、ほんの少しの水を手ですくってハチの口元に差し出した。ハチはそれを舐めて、静かに目をとじて亡くなった。

僕はこの時、友人を東京から連れてきておりその友人に気を使って、死んだハチの事をほったらかしにしてあちこち飛び回っていた。ああ、自分はなんと薄情なやつなんだといまだに思い出す。この本のトスカやクヌートのように、ハチが新聞を読んだり文字を書いたり話したりできたら、僕になんと言うだろう。

 

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