『チョンキンマンションのボスは知っている』、う~ん、なんと僕の好奇心を刺激する題名だろう。これを考えた編集者は、優秀な人なんだろう、きっと。
と言う事で、図書館のシステムで検索すると19冊も蔵書がある。なのに借りるまでに数カ月かかってしまった。それも、初版発行は2年前。
なんなの?
そんなにこの本、話題性があるの? なんかの流行り? 著者が有名人?
それとも、僕と同じで題名に惹かれただけなのか。
内容は、香港の安宿チョンキンマンションのボスである”カラマ”を軸に香港で商売をするタンザニア人の日々の生活、商売のやり方、人間関係や彼らのコミュニティの繋がり方などを紹介しながら、香港在住タンザニア人社会の内側を解明していく。
文化人類学者である著者のフィールドワークの産物でもあるこの本は、最終章においていよいよ著者の研究者としての観点から、この小さな社会を考察する。
この本の後半部を読みながら僕の記憶が甦ってきた。
これって、日本でも夜の街とか金融や不動産とかのちょっとグレーな世界にあった人的関係に似ている。ただ、在外の同国人と言う共通の根っ子がない分もっと希薄だと思うけれど、この本で言う互酬性やあまり相手を詮索しないところ、情報の共有はあっても信頼関係はなく商売上はライバルだけれど儲かると思えば手を組む。なんか、ゆるいネットワーク。
チョンキンマンション横の路地は、昔の神田駅前の喫茶店だった。
そう思うと結局、効率だなんだかんだと言っている人達はカッチリしたシステムの中にいるからこそ、その効率は実効性があるのだろうが、そんなシステムとは無縁な人達、システムリソースをトータルで使えない人達にとっては効率がお金に変わるとは思えないし、実際、部分的に効率を求めても利益に繋がらないのは明白なんだと思う。
著者が、あとがきに書いているようにこの本はエッセイだ。そして、エッセイだから良かった。こんな内容の研究書を読んでもちっともおもしろくないだろうし、こんなアナログなアバウトな研究なんて難しくって、僕はついていけないだろう。
まあ、題名ほどのインパクトはないにしても、なかなかおもしろかったし、日本でも、こんなマイナーな地球温暖化関連以外の研究も続けられていると言う事にちょっと僕は安心した。