ダイニングテーブルに置いていたこの本を見た息子に「めずらしいね、本買ったの?」と言われるくらい久しぶりに本を買った。
最近は、本は図書館で借りる事が多くなって本屋さんに足を向けることも少なくなって来た。
そんな僕に本を買わせたもの、それは直木賞その他の受賞歴なのか?
いやいや、そもそも直木賞や芥川賞受賞作品で今まで買ったことのある本と言えば、学生の頃に買った”限りなく透明に近いブルー”と子供が読みたいと言うので買った”火花”しかない。
この63年間で二冊、そんな僕にそれを買わせたもの、それはズバリ沖縄だ。
僕が初めて沖縄を身近に意識したのは、40年以上前に姉が沖縄に行ったときに牛ステーキ肉を土産に買って来た時だろう。そのとき、僕はなぜ沖縄土産がステーキなのかわからず姉に聞いた。
姉は、「沖縄はこの前までアメリカやったけ、そんときの値段を急に上げられんから安いらしいんよ、それでね」とか言ったのを憶えている。
しかし、それ以後も僕の中の沖縄は福生や横須賀や岩国とあまり変わらずにあった。それは、田舎の中学生であった僕がユエやダナン、サイゴンやハノイという地名を毎日目にしていたようにベトナム戦争が身近にあったり、ソ連の軍用機が領空侵犯したニュースが頻繁に新聞に載るような時代の中で沖縄が埋没していたからだろう。
だが、おとなになってから太平洋戦争と言う愚かしい出来事に興味を憶えていく中で、僕は沖縄戦を通じて戦後の沖縄にも興味を憶えて来た。それは、日本民族の本質って何なんだろうと言う好奇心が膨らんで来た結果なんだけれど、日露戦争、日中戦争、太平洋戦争、あるいは、インパール、南京、満州、どういう切り口でも何か共通する日本人の本質が垣間見えてくる、それを戦前戦後の沖縄にも感じてしまうからだ。
この物語は、戦後の米軍統治下の沖縄で”センカアギャー”と呼ばれた盗人の集団を軸に展開していく。彼らは、米軍基地から物品を盗み住民に与えたりした義賊のような存在だったらしいが、そのグループの若者達がおとなになって行く過程を沖縄の戦後の事件と絡めてスリリングに描写する。
なかなか、面白い。
僕は、こんなところで本の内容をグダグダ書くのは余り好きじゃないので書かないけれど、最近の小説にしては良く出来ている。
そして、この小説は辺野古のことが話題になっている折にタイムリーだし、沖縄の事をもっと知りたいと言う人にはうってつけかなとは思う。
とにかく、戦後の米軍統治下の沖縄の事がわかったような気になれることは確かだ。
作者の言いたいところもそのあたりだろうと言うことは、内容からも充分感じられる。
と言うか、日本国民よ沖縄の事をもっと知ってくれ、関心を寄せてくれ、あんた達が思っているような生ぬるい事じゃないんだ沖縄が今まで受けて来た抑圧されて来た歴史は、と言う作者の声が強すぎるくらいに聞こえてくる。
と言う事でこの本、買ってみて損はないと思う。
ただ、作者の主張は分かるんだけれどそれに加えてもう少し緻密に小説としての完成度を高めて欲しかったなと思う。
物語は、ストーリーの展開と登場人物の描写で支えられているのだけれど、そこに例えば、バーの小さな看板や路地裏のすえた匂い、雑踏の人いきれや夏の夕方の浜辺の潮風の匂い、些細な具体的な少しの描写で、読者の脳内でリアリティを持ってイメージがもっと膨らむのになと思ってしまった。
はっきり言って、匂いがあまりしない。
それに、レイがヤマコを道端で暴行する場面、あれはないわな。
なんぼ感情的になって爆発するようなヤクザもんでも、あの頭のいいまともな男が幼馴染の初恋のひとを道端で暴行するなんて、ちょっと社会を知らんと言うか人間を知らんというか、よっぽどヤクザにもなれない異常者ならまだしも普通のヤクザやってる奴ならそんな事しないし、できないと思う。
そこら辺り、最近の若手作家はいい子で家の中から出ないで育ったのか、社会経験が乏しいのかもしれない。
他の作家でも、同じような環境の同級生とか同世代とかは詳しく描写できるのにちょっと年代が離れたり、社会的な階層が離れたりするとうまく描写できないように思える小説を見ることがある。
それとも、作者の考える話の筋としてそこにそういう話を入れたかったのかもしれないけれど、それはやめた方がいいと思う。
最近、ちょっとそういうところを他の本でも見るけれど、奇異に感じるし登場人物は特別にその人物以上でも以下であっても、その話自体が嘘臭く感じる。
まあ、そんなところにも気配りできれば、本の頁数と同じくらいもっと厚みのある小説になったかもしれない。
作者は、見た事もなければ行った事もないからとは小説家としては言えないと思うし、小説なんて所詮嘘話なんだから嘘を本当らしく見せてくれればいいと思う。
その辺り、疎かなんだかそれが流行りのスタイルなんだか知らないけれど、最近の日本の若手作家の小説に時々感じることがある。
だから、その分ー5点でこの小説は75点くらいかな?
これでも、僕はこの本褒めているつもり(笑)