進化と言えば、僕は中学か高校の教科書に載っていたキリンのような首の長い馬のような絵を思い出す。
ダーウィンの突然変異説に対して、ラマルクのキリンの首は木の高い所の葉を食べようとして段々と伸びてきたと言う説を説明するところの絵だった。僕が50年近くたっていまだにラマルクの名前を憶えているという事は、当時の僕に大変強い印象を与えたのだろう。
そんなことを思い出しながらこの本を読み始めた。
「進化の歴史は繰り返すのか?」 こんなこの本の題名を見てもちょっとピンとこなかった。進化の歴史が繰り返す? とは?
副題を見て、ふ~ん、偶然と必然かぁ、なんとなく想像できたような気がした。
つまり、生物は同じ環境なら場所が違っても時間的にずれていても同じように進化して最後には同じ機能や見た目を獲得するか、または、今現在同じような機能や見た目をもった生物でも、それは必ずそうなると言うものではなく、たまたま偶然が重なった結果が環境に適応できただけで、もう一度同じ環境に晒されても同じように進化するとは限らないんじゃないかということらしい。
こういう事を頭の片隅に置きながらこの本を読み始めたのだが、なんて言うか、じわじわと面白い。
この前も書いたのだけれどこの類の外国の本は、ストーリーもちゃんとしていて読者のレベルにも内容をちゃんと合わせてくれていたり好奇心もくすぐってくれたりして、とにかく飽きさせない。
研究者である著者がみんなこんなにうまい書き手である筈がないと思うので、多分編集者がすごいんだろうなぁとは思う。でも、やっぱり内容が伴っていないとどんな凄腕の編集者でもダメだろうね、でも、ダメな内容なら凄腕編集者は手を出さないか(笑)
それで、必然のほうの簡単な例を挙げれば魚類であるサメと哺乳類であるイルカの形が似ているだろう、クジラだって哺乳類なのにヒレがあって魚のように泳ぐじゃないか。
いやいや、それならと偶然側はオーストラリアの有袋類が他の大陸に居てもいい筈なのにいないのはどういう訳だとなる。
そして、こんな話が延々と続くのかと思いきや、いや、実際続くのだけれども、いつのまにか僕は必然とか偶然とかの話の事は忘れて、紹介されるひとつひとつの研究の内容に興味を憶えていった。
例えば、大アンティル諸島(ジャマイカとかプエルトリコとか)の島々で孤立して進化したトカゲであるアノールが、樹上に棲む種の前足が短く、地上に棲む種の前足は長いのは前者は細い枝にもつかまりやすいからで後者は早く走れるようにそうなったらしいとか。
ダフネ・マヨール島と言う所では、干ばつで1200羽いたフィンチと言う鳥が180羽に減少した。残ったフィンチは体が大きく嘴の大きな個体だったが、これは、小さい種子から食べつくされて大きな硬い種子をかみ砕く力のない小さな個体は生きていけなかったからだ。
しかし、話はこれで終わらない。
その数十年後、例年の10倍の大雨が降って小さな種子が大量にできたとき、今度は小さな嘴を持つフィンチが勢力を広げた。これは、小さい種子を効率良く収穫するには小さな嘴のほうが有利だからだそうだ。
そして、これらの嘴や体の特徴は遺伝的に受け継がれる特質であるということなので、進化というものが数年や数十年の単位で起るということがわかると著者は述べている。
そうなん? 進化って数万年とか数十万年とかの単位で起るんじゃないの?
ちなみに、このフィンチの研究をしているグラント夫妻は、この研究を35年も続けているらしい。
これら以外にもウサギがいる環境といない環境での植物の生育やシカネズミの体色と土の色とか、イトヨという魚の資源争奪のための進化の話。
そして、細菌類での進化研究。
もっとたくさんあるんだけれど書ききれないし、書く必要もないだろうけれど、誰かにこんな事知ってる? これってこうなんだよ、なんて話たくなる事柄がいろいろ出て来る。
この本の飽きが来ないところのひとつに、これらの研究者達の話が興味深く時には軽妙に書かれていることがある。
トリニダードでグッピーを40年研究しているレズニックは、ジャングルの獣道に密猟者が仕掛けた銃のワナのために今でも左のくるぶしに17個の散弾が残っていて左耳の聴力も失くしたらしい。
いやはや、生物学者ってインディジョーンズみたいな人のような気がしてきた。
こんな感じでいろんな進化の研究が紹介されるんだけれど、途中まで読んで来るとこの本の副題である必然か偶然かで言えば、必然じゃねと言う気に僕はなって来たと言うか、必然側の話ばかりじゃないか。
が、ところがどっこいそうじゃないんだなぁ。
次に大腸菌の話になってくるとグンとスピードアップする。なんせ、20分で一世代終わるんだから超スピード。だから、何千世代もの歴史を人間が実際に観察できるということなんだな。人間の生物学的な寿命を30歳とすれば、30年×1000世代は3万年かかるが、大腸菌の1000世代は20分×1000世代は20000分÷60分≒334時間≒14日で観察が出来るということだ。
ここでは、偶然派が盛り返してくる。
まあ、研究内容は省くがここでも研究者のレンスキーは大腸菌を30年研究しているらしい。弟子が10年くらいとか(笑)
興味が尽きないんだろうなぁ。
この本、いろいろな進化の話や研究者達の実態などの興味深い話が次から次に出てきて飽きないんだけれど、その話の底流にちゃんと主題がある事を感じられる。
よくまとまったいい本でした。