NHKラジオのすっぴんがなくなって2カ月、その番組の金曜パーソナリティだった高橋源一郎さんが、そのすっぴんの中でやっていたコーナーがひとつの番組になったような新番組、高橋源一郎の飛ぶ教室。
僕の希望を言わせてもらえば、そのすっぴんの中のコーナーでは、能町みね子さんのあの町この町も復活してくれると嬉しいなぁ。
そんなことは、ここではどうでもいいんだけど。
とにかく、この”コロナの時代の僕ら”は、その飛ぶ教室の中で高橋源一郎さんが紹介してくれたものだ。
天邪鬼な僕は、今までベストセラーとかなんとか賞などと言われる本をあまり読んだ記憶がない。ところが、最近、どういう訳か芥川賞とか本屋大賞とかの本を続けて読んでいる。
娘が持ってきたり、ラジオや新聞で知ったものが多いが、歳をとったと言うことだろうか。
この本もイタリアで200万部のベストセラーを書いた人気作家の本だ。
この本の著者、パオロ・ジョルダーノは1982年トリノ生まれの物理学博士で小説家としてもイタリアでは人気作家らしい。
それにしても、人口6000万人のイタリアで200万部と言うと人口1億3千万人の日本では、ざっくり400万部の計算か、すごい。
それに、この本を書くきっかけとなった”混乱の中で僕らを助けてくれる感染症の数学”という寄稿記事は、WEB版で400万回のシェア回数があったと言うから大反響だったに違いない。
この著者はそんなに人気作家なのか、それともその記事がイタリア人の琴線に触れたのか、それともこの新型コロナがイタリア人にとってそうさせる程に衝撃的だったのか、いろいろな興味や好奇心も持って読み始めた。
この5月の下旬の日本で読んでいる僕には、すいすいと脳にも心にも入って来て沁みわたる。同感、共感、ウィルスや感染症の説明もふむふむと頷きながらすんなり入ってくる。
しかし、この著者は2月下旬から3月月初のイタリアで、この文章を書いている。イタリア人初の感染者が発見されたのが2月18日、累積感染者数は、2月24日231人、3月1日で1694人とこれくらいのときだ。日本では、3月1日と言えば、あのクルーズ船から全員下船した日だ。
まだまだ、イタリアでも日本でも他人事とみんな思っていた頃だと思う。
5月下旬の今だからこそ僕は、素直にこの本をスラスラと読めるのだが、2月末の時点でこんなふうに新型コロナのことについて考え、思い、想像できただろうか?
ましてや、他人にこんなふうに話せただろうか?
まあ、この本は小説家のエッセイ集であり、新型コロナ対策のハウツー本ではないので、そんなことはどうでもいいとは思うのだが、この著者の洞察力の深さを感じるところではある。
そして、訳者あとがきでも述べられていたところだが、著者あとがきの”コロナウィルスが過ぎたあとも、僕が忘れたくないこと” がいい。
その一部をここに転載して紹介しようと思ったが、ひとまとまりが長くて、やめた。そうそう、ハヤカワのサイトで著者あとがきの部分だけ公開しているので、そちらで読んでみることをお勧めする。
とにかく、新型コロナは置いておいても、とにかくこの本は、イタリアの小説家の素晴らしいエッセイなんだということだ。
著者あとがき【コロナウィルスが過ぎたあとも、僕が忘れたくないこと】
イタリア人も日本人も中国人もアメリカ人も世界中の人々が、ひとつの事を同じように体験し、感じ、思い、考え、対応した経験なんて、第二次世界大戦以来なんじゃないのかなぁとふと思った。
だから、世界中の人々が他の人のことを想像して思いをめぐらすいい機会かも、他の人のことを心配してあげられるいい機会かも、世界中の人々がひとつになるために一歩を踏み出すいい機会になる可能性だってあるかもしれない。
僕は、この本のおかげで世界の人々が今まで以上に身近に感じられるようになった。