10の国旗の下で 満州に生きたラトヴィア人 エドガイス・カッタイス著

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僕の中で満州と言えば、過酷な引き揚げのイメージが湧いてくる。いっぽう、同じ満州でもハルビンと言えば、何故かいろいろな人種とレンガ造りの建物の異国情緒あふれる国際都市をイメージしてしまう。いつのまにか刷り込まれたイメージだとは思うが、本の表紙にハルビンの文字があればついつい手に取ってしまう。
この本は、そんな国際都市ハルビンに生まれ、そこで育ち、30歳くらいまでそこに住んでいたラトヴィア人の著者の回想の記録である。

何故、ラトヴィア人が極東の中国で生まれ、そこで育ったのか、ちょっと最初は不思議に思ったものだが、歴史を遡れば当たり前の事だった。
それは、ウラジオストクから旅順口までの鉄道を敷設したのがロシアで、その鉄道の中継点としてハルビンの町を作ったからだそうだ。
よく考えれば気が付きそうなものだが、日露戦争で日本がロシアから南満州鉄道を得たという事は、それまでロシアが持っていたという事だ。そして、その頃ラトヴィアはロシアと密接な関係にあったという事。
でも、この本にもちょっと書いてあるが、なぜロシアは中国に鉄道を敷設出来たのだろうか、不思議でならない。そういう時代だったと言えばそれまでだが。

まあ、そんな事はどうでも良い。
この本には、著者のカッタイスが暮らしていたハルビンの町と人々の暮らしぶりが、10の国旗の下でも驚くほど変わりなく普通だった事が書かれている。
それは、体制が変われば相当変化するだろうと僕なんかは想像してしまうのだけれどそれほどでもなかったようだ。

もちろん、日本の支配下では酔った軍人が刀を振り回したりとか、中国共産党支配下では農民も農作業もせず延々と議論していたりとかもあったようだが、日常生活では普通に暮らしている様が描かれている。それは、カッタイス自身が外国人であったからだろうとは思うけれど、やはり、そこには国際都市の自由な雰囲気が漂っている気がする。

そして、この本には主に著者の身の回りの出来事が書かれていて情緒的な風景とか街並みの事などの記述は少ないので、国際都市ハルビンの街の雰囲気をもう少し伝えてくれそうな本を僕は読みたいな、なんて気になって来た。

 

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