栄光のバックホーム 中井由梨子著

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2009年8月、僕は横浜スタジアムの1塁側内野スタンドにいた。そこでは、全日本少年軟式野球大会の試合が行われており、鹿児島から来た東市来中の攻撃中だった。
隣の人が打席の選手を目で追いながら「あの子、二年生らしいよ」と言った。僕は、「ほう、2年で4番かぁ」と言ったのを憶えている。
本当は3番だったか、いや、5番だったかもしれない。
とにかく、中学生は成長が早く学年毎の体格差が大きいので下級生でクリーンナップを打つのは少ないのである。
その二年生選手が、横田慎太郎君だったのである。

僕はドラフトが決まると指名された選手一覧を見ながらどこの出身なのかとか、甲子園に出ていたあの選手はここかぁとか思うだけの普通のオヤジなのであるが、何の記事だか憶えていないけれど、ドラフト情報に東市来中と言う文字を見つけた。
もしかしたらあの時の二年生、それがここまで繋がっているのである。

僕は阪神ファンでもプロ野球ファンでもないのだけれど、それからは、チラチラとプロ野球情報を見る度に彼の事が気になっていた。そして、少しずつ活躍が聞こえてくるようになった頃、突然情報が途絶えてしまった。
僕は、彼の試合を見に行った事も無ければ会った事もないし共通の知り合いもいないからどうしようもない、そのうちどうやら病気らしいと言うのが聞こえて来た。
その病気と言うのが脳腫瘍だったのである。

この本は、横田君のお母さんが彼と共に歩んできた人生の軌跡を著者が一人称のドキュメンタリとしたものだ。
そこには、律儀で誠実な青年と溢れんばかりの愛情を注ぐ母親の物語があった。
僕は、彼を自分の息子と重ね合わせて涙した。ページを開く度に涙が出た。

そこには生身の人間が居て物語がある。ひとりひとりの物語がある。そこに心が震える。

 

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